今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士はそう断言して、足を解き勢いよく立ち上がった。
忠臣が顎を摩りながら思案しているのを横目に、大股で部屋を横切り廊下に続くドアに向かっていく。


「それが軍部の人間なら、琴を見張る必要もない。俺が探し出せばいいことだ」

「総士様」

「早速、本部に行ってくる。早乙女軍曹が戦死した時の記録を洗えば、なにかわかることもあるだろう」

「……総士様」


三角巾で腕を吊った痛々しい姿だというのに、意気揚々とドアノブに手をかける総士を、忠臣がまだ呆れた様子で繰り返し呼んだ。
それには総士も行動を止め、首だけ捻って肩越しに振り返る。


「奥方様が聞いたら、お涙物の潔く温かい言葉だと思いますが……ご自分で気付いてらっしゃいますか? 総士様はエラく矛盾しています」

「え?」


なにやらもったいぶった言い回しをする忠臣に、総士は首を傾げた。


「俺の、なにが矛盾だ?」


どこか心外そうに眉を寄せる総士に、忠臣は声に出して「はあっ」と息を吐く。


「仰る通り、琴様が夫を裏切る妻じゃないと、そこまで断言するのであれば……。なぜ総士様は奥方様に『情夫』を疑いましたか?」

「っ……!!」


真っ向から心をズバッと射貫く忠臣に、総士は不覚にもグッと声に詰まった。
< 139 / 202 >

この作品をシェア

pagetop