今宵、エリート将校とかりそめの契りを
陸軍省に到着すると、総士は真っ先に上官である山本中将の執務室を訪ねた。
いつもと変わらぬ凛々しい軍服姿だが、右腕を三角巾で吊って固定した総士に、すれ違う誰もがギョッとして振り返る。
街中を歩く時、主に女性から向けられる視線を軍部でも感じる鬱陶しさに辟易して、総士はずっと眉間の皺を深めたまま、ドアをノックした。


「おはようございます。名取です」


「入れ」と短い返答を聞いて、総士はゆっくりドアを開けた。
中に一歩踏み出し、ビシッと敬礼する。


同じ仕草を返した山本中将は、三角巾の総士を見ても、眉を寄せるだけで驚きはしない。
昨夜、総士が手当てを受けている間に、忠臣の命を受けた使用人が使いに出ていたからだ。


「痛々しいな」

「大袈裟で申し訳ございません。傷は一太刀。それほどの深手ではありません」

「しかし利き腕では不便だろう。傷が塞がるまでは自宅療養しておけ」

「ありがとうございます。一日二日で動かせるようになるかと」


山本中将にはそう礼を言って目を伏せ、再びしっかり顔を上げると、総士は上官の机の前に大股で移動した。


「しかし、君の周りは物騒だな。パレード中に斬りつけられたのは、ついこの間じゃないか」


机の前で両足を揃えてピタリと止まった総士を見上げ、中将は揶揄するように声をかける。


「山本中将。その件にも関することです。折り入ってお話が」
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