今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士が表情を険しく引き締めるのを見て、中将は怪訝な面持ちで彼に先を促した。


「昨夜の襲撃を受けて確信しました。軍部に、誰か私を陥れようとしている人間がいると」


キビキビとした口調で述べる総士に、中将はほお?と目を細めた。


「その心は」

「パレードの時の襲撃犯は、私を家族の仇だと言いました。……兄を、戦地で私が見殺しにしたと」

「見殺しだと?」


総士の淡々とした答弁には、彼の感情はなにも滲み出ない。
山本中将は眉をひそめて苦々しそうに舌打ちをした。


「戦死した兵士の家族は、そうやって上官を逆恨みするものだ。それをいちいち気にしていては……」

「それで家族の気が晴れるならば、気になどしません。ですが、琴はそんな浅慮な女ではない。誰かにそう入れ知恵されて確証を得て行動した……。私はそう考えています」

「琴?」

「……妻です。私が娶った」


ポロッと口にした名前を耳聡く拾い聞き返され、総士は苦虫を噛み潰したようにわずかに顔を歪めた。
それを聞いて、山本中将はきょとんとした様子で大きく目を見開いた。
そして、ブッと遠慮なく吹き出す。


「……中将」

「はっはっは! そうか、君の妻は、例の……。いや……感情が顔に出ない、なにを考えているかよくわからない男だと思っていたが、随分とぶっ飛んだことをしでかしたものだな」
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