今宵、エリート将校とかりそめの契りを
声高らかに笑われて、総士もわかりやすくムッとする。


「中将、大事なのは妻の話ではありません。本題はここから」


目尻に涙まで滲ませる上官に、忌々しい気分になりながら、総士は声を張って彼を制した。
山本中将も、クックッと含み笑いを残しながらも、豪快な笑い声はのみ込んだ。


「琴……妻の兄は、早乙女顕清という軍曹です。欧羅巴の戦場で、全軍壊滅された部隊に属しておりました」

「壊滅?」


短く聞き返されて、総士は「はい」と頷きながら返答する。


「早乙女軍曹の部隊は先陣でした。憶測にしかなりませんが、おそらく……地雷原があったものと」

「そうだろうな」


中将は総士の言葉に同意を示し、顎を撫でた。


「パレードの後、考えました。妻の言う『見殺し』とは、私が地雷原の存在を知っていて、そのまま先陣を行かせたと思っているせいではないか。ですがむろん、私は偵察隊からそのような報告を受けていない」

「思い出したよ、名取中尉。欧羅巴……特に混乱した戦場があったな。私が率いた軍隊だ。君が副官……二年前のことだな?」


中将は自身も総士と同じように戦地の記憶を探り、しきりに顎を摩り続ける。


「しかし、名取中尉。君と同じように、私も地雷原の存在は、偵察隊から報告されていない。それは正式記録として参謀本部にも上申している」
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