今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「はい。ですから……あの戦地の事情を知っている軍部の誰かの仕業かと」

「なに?」

「早乙女軍曹の家族には、戦死公報が行っただけで、全軍壊滅などという情報を知る術はない。つまり……簡単に逆恨みと切り捨てられないほど、情報が漏れているのですよ」


言いながら厳しく目を細める総士に、山本中将もピクリと眉尻を上げた。


「なるほど。……それで軍部に裏切者がいると、そう言いたいんだな」


先ほどの笑いの余韻は完全に鳴りを潜めている。
山本中将は、軍の幹部まで上り詰めた精鋭らしい、鋭い瞳を総士に向けた。


「怪我を押して、告発に来たか。……で? それは誰だ?」


中将は机に両肘を乗せ、顔の前で指を絡ませながら、総士を上目遣いに探った。
しかし総士は不機嫌な顔でそっぽを向く。


「……まだ、掴めません」

「え?」


中将からしたら、総士の返事は腑に落ちない物だったのだろう。
両手の向こうの顔が、わずかに厳しく歪む。


「なぜ。捕り物の奥様から聞けば済む話では……」

「無理です……彼女は私を警戒している」


総士は上官に早口で被せるように言って、大きな溜め息をついた。
総士のわかりやすい苛立ちを見て、山本中将はパチパチと瞬きを繰り返す。
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