今宵、エリート将校とかりそめの契りを
そして。


「クックックッ……。あ~っはっは! いやはや……名取中尉ともあろう男が」


先ほどと比べものにならぬほど盛大に、中将は腹を抱えて笑い出した。
笑われている総士は、上官を憎々し気に睨み返す。


「……中将。笑いすぎです」

「士官学校主席の君に、指南することもないと思っていたが……じゃじゃ馬の乗りこなし方は指南しようか?」


腕組みをして、肩を揺らして笑い飛ばす中将から、総士はプイと顔を背けた。


「結構です。そんなもの」


悔し紛れの独り言は、中将の笑い声で掻き消えてしまった。


しかし、屈辱的な思いをしてまで中将に報告した成果はあった。
中将は、軍部の機密事項にもなり得る正式報告書の閲覧許可を与えてくれた。


参謀本部の資料室で報告書をひっくり返すようにして読み漁り、総士はその名前を見つけて手を止めた。


「『上木正一』……?」


つい最近も耳にした、特に珍しくもないその名字がやけに引っかかる。
総士は自分の記憶を探り、行き当たった途端ギクリと肩を震わせた。


「まさか……」


総士は手にしていた資料を一度閉じ、その題名を今一度確認した。
そして、その名前が、早乙女顕清の部隊の全軍壊滅を報告した部隊名簿にあるのを、しっかりと目に留め……。


大きく息をのみ、勢いよく椅子から立ち上がった。
急いで手元の資料を片付け、総士は資料室から飛び出した。
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