今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士は忠臣に視線を向けることなく、宙の一点を見据えている。


「成功しようが失敗しようが、自害するつもりだったのでは? 実際、警察の手に委ねていれば死罪……生き延びても、遊郭に売られ遊女にでもなるか。どちらにしても、身寄りのない没落華族の娘に、行く末はないでしょう」


忠臣が淡々と意見を述べるのを耳にして、総士はハッと息をのんだ。


「っ……忠臣、あの女は? 今どこに捕らえている?」


組んだ足を解き、両足を床に着いて机越しに身を乗り出す。
普段からは想像できない総士の剣幕に、忠臣は眼鏡の位置を直すように、そっとつるを指で押さえた。


「女中頭に言いつけ、階上の客間に閉じ込めてあります。もちろん、仰せの通り、逃げ出せないよう、ドアの外には護衛を二人……」

「っ、階上!? 二階か、三階か!?」


忠臣の返事を聞くなり立ち上がると、総士は大股で執務室を横切り、ドア口に向かっていく。


「総士様?」


背中を追ってくる忠臣の声に、ドアノブを捻りながら振り返った。


「だったら窓の下にも護衛が必要だ!」


総士は半分怒鳴るように言い捨て、勢いよくドアを開け放った。
< 15 / 202 >

この作品をシェア

pagetop