今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士と忠臣が執務室で話をしていた頃―—。


ちょうどその真上に当たる二階の客間の出窓が、内側から大きく開かれた。
そこから、屋敷の庭を見渡すように顔を出したのは、先ほどここに連れて来られたばかりの琴だ。
彼女は窓枠についた両腕で身体を支えるようにして、キョロキョロと辺りの様子を窺っている。
そして大きく息を吸い込み、ヒョイッと窓枠に片足をかけた。


「よいしょ、よいっしょ……」


窓枠にかけた足に重心を置き、もう片方の足も乗せる。
窓枠の上にしゃがむ格好になり、琴は一度眼下の庭を見下ろした。


「うわあ……高い」


窓を開けて眺めた時より、自分の身長の分も高さを感じる。
無意識に身体がブルッと震え、琴は窓枠に掴まる手にグッと力を込めた。


(下は見ない。見ちゃダメ……)


自分にそう言い聞かせ、琴は意識して顎を上げた。
彼女の額の先に、窓のすぐ側に植えられた春楡の木の枝が伸びている。
この太さなら、伝って木の幹までいけば、地面に降りることも可能だ。
そう判断して起こした行動だ。


窓の外側に出て、白亜の外壁のわずかな出っ張りに、爪先を乗せる。
初秋の冷たい風が、窓枠に立つ琴の髪や袴の裾を揺らした。
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