今宵、エリート将校とかりそめの契りを
しかし――。
上木呉服商の軒先に辿り着いた琴は、電話を借りる必要なく、正一の姿を目にすることができた。
彼は呉服商の惣領息子らしい和服姿で、蔵に保管している着物や反物の日干し作業を手伝っていたのだ。
休暇でも取っているのだろうか。
兵舎にいるものとばかり思っていたのに、ここで会えるとは予想外だった。
今朝から琴がやろうとしていることは、不思議なほど難なく思い通りに進む。
琴の方が面食らい、主人である父と作業をする正一に、一瞬声をかけそびれてしまった。
一度店に引っ込んだ正一が、幾つかの反物を抱えて出てきた。
琴は「あ」と言いながら、小走りで近付こうとして。
「っ、あ……」
「こらっ! 正一! なにしてるんだ、バカもん!」
正一が手に持った反物をバサバサと音を立てて地面に落とし、それを主人が叱責する。
それを聞いて、琴はビクッとして足を止めた。
無意識に胸元をギュッと握りしめる琴の視線の先で、正一は「ごめん、父さん」と言いながら、屈んで反物を拾っている。
なんとなくタイミングを逸した気がして、琴は電信柱の陰に隠れた。
そこからひょこっと顔を出し……。
(え?)
反物を拾う正一の腕が着物の袖から覗いて見え、ギクリとした。
彼の腕は、総士の肩と同じように、真っ白な包帯がグルグル巻きにされていたのだ。
上木呉服商の軒先に辿り着いた琴は、電話を借りる必要なく、正一の姿を目にすることができた。
彼は呉服商の惣領息子らしい和服姿で、蔵に保管している着物や反物の日干し作業を手伝っていたのだ。
休暇でも取っているのだろうか。
兵舎にいるものとばかり思っていたのに、ここで会えるとは予想外だった。
今朝から琴がやろうとしていることは、不思議なほど難なく思い通りに進む。
琴の方が面食らい、主人である父と作業をする正一に、一瞬声をかけそびれてしまった。
一度店に引っ込んだ正一が、幾つかの反物を抱えて出てきた。
琴は「あ」と言いながら、小走りで近付こうとして。
「っ、あ……」
「こらっ! 正一! なにしてるんだ、バカもん!」
正一が手に持った反物をバサバサと音を立てて地面に落とし、それを主人が叱責する。
それを聞いて、琴はビクッとして足を止めた。
無意識に胸元をギュッと握りしめる琴の視線の先で、正一は「ごめん、父さん」と言いながら、屈んで反物を拾っている。
なんとなくタイミングを逸した気がして、琴は電信柱の陰に隠れた。
そこからひょこっと顔を出し……。
(え?)
反物を拾う正一の腕が着物の袖から覗いて見え、ギクリとした。
彼の腕は、総士の肩と同じように、真っ白な包帯がグルグル巻きにされていたのだ。