今宵、エリート将校とかりそめの契りを
(正一さんも、怪我をしてる……? でも、この間会った時はそんな様子もなかったのに)


負傷してから日が浅いのだろう。
見たところ総士ほどの傷ではないが、反物を落としたのもきっとそのせい。
こうして実家に戻っているのも、怪我のせいで訓練に参加できない為かもしれない。


「まったく。大事な商品を砂だらけにされちゃあかなわん。こっちはいいから、蔵の掃除でもして来い」


主人がそう言って、立ち上がった正一の手から反物を奪い返す。
その時、手がぶつかりでもしたか、正一が顔を歪めるのを、琴は見逃さなかった。


(もしかして、見た目以上に深手とか。傷は相当新しい?)


思考を巡らせるうちに、琴の表情は無意識に険しく歪んでいく。
まさか、と考え、琴はゴクリと喉を鳴らした。


(昨夜、総士さんを襲ったのは、やっぱり……)


総士が受けたのは一太刀だ。
彼は襲った男の顔を見ていないと言ったが、それはきっと犯人が逃げ出したからだろう。
総士の抵抗に遭い、犯人の方も怪我をしたせいだと考えられる。


主人に手で払われ、正一は黙って店の外を回り路地に入った。
その裏にある蔵に向かう彼を、琴はジッと見つめた。
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