今宵、エリート将校とかりそめの契りを
そして、首を横に振って正一の言葉を否定した。


「惑わされてない。私、あの人のこと……好きだわ」


睫毛が震えるのを感じながら、琴は地面に目を伏せた。
正一が頭上で息をのむ気配がする。
琴は思い切って顔を上げ、繰り返し告げた。


「私、総士さんが好き。あの人をもっと愛したいから、一生連れ添います」

「っ……!!」


正一はギュッと目を閉じ、琴の言葉を頭から否定して払いのけようとするように、勢いよく首を横に振った。


「ダメだ、琴。中尉じゃ君を幸せにできない。琴は俺とだから幸せになれるんだ。君を幸せにすると、俺は顕清にも誓ってっ……!!」


狂おしげな叫びは、まるで動物の咆哮のように、琴の耳も心もつんざいた。
正一の想いの強さに琴が怯んだ隙を、彼は見逃さなかった。
琴の腕を掴み、力任せに自分の方に引き寄せる。


「きゃっ!!」


体勢を崩した琴の抵抗は遅れ、正一の胸に飛び込むような恰好になった。
慌てて離れようとした琴を覗き込むように、正一が顔を近付けてくる。


彼がなにをしようとしているかを瞬時に察して、琴の頭の中に一瞬にして警鐘が響き渡る。


「っ……! いやっ」


琴は限界まで首を捻り、辛うじて正一の唇から逃れた。
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