今宵、エリート将校とかりそめの契りを
しかし――。


「総士、さん……」


頬に伝わってくるのは、確かに総士の温もりだ。
少し速い彼の胸の鼓動が、とても優しく琴に浸透していく。


「あ……」


これ以上ない安心感に、琴は小さく声を漏らした。
ホッとした途端、一気に涙が込み上げてくる。


「総士さん、総士さ……」


彼の怪我を気遣う余裕もなく温かい胸に顔を擦りつけ、その名を呼びながら泣きじゃくる。
総士はそれに応えるかのように、琴の頭に左腕を回し、彼女の後ろ髪を手繰り掴み上げた。


「もう勝手なことをするな。急いで家に帰ったのに、お前がどこにも見当たらないと言われて、ここに来るまで俺がどんな気持ちで……っ」


絞り出すような声が、頭上から降ってくる。
声を詰まらせた総士が、ハッと小さな吐息を漏らす。


「ご、ごめんなさ……」


怪我をしている総士を、心配させてしまった。
彼の声色からそれを痛感する。
しゅんとして、琴はそっと顔を上げた。


顔を伏せた総士が、「はあっ」と声に出して深い溜め息を漏らす。
鬼のように怒りで歪んでいた表情はまだ硬いが、先ほどよりも和らいでいる。
そんな彼に、琴の胸はきゅんと疼いてときめいた。


(この人が、好き……)


総士と向き合い、改めて強く自覚した想いは、琴の全身にくまなく染み入る。
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