今宵、エリート将校とかりそめの契りを
それを感じて琴は無自覚にブルッと身体を震わせ、そっと顔を俯かせた。


総士はそれを見て腕を解き、もう一度地面に視線を落とした。
琴もハッとして正一に目を向ける。


突然の総士の登場に恐れ慄き、地面に尻餅をついた正一が二人を見上げている。
彼の尻の下でジャリッと砂が擦れる音がした。
総士は足元の砂利を踏みにじるように、正一と正面から向き合った。


「ど、どうして中尉がここに……」


正一は呆然として、まるでうわ言のように呟く。
総士は眉間の皺を不機嫌そうにクッと深め、一歩足を踏み出した。


「どうして? どの口でそう問う」


地の底を這うような冷たい総士の声に怯んだ正一が、ジタバタと尻をずらして後ずさる。


「琴は俺の妻だ。俺を陥れようとしたことは目を瞑れるが、たった今、貴様が琴にしたことは許せない」


総士が足を進める毎に、彼の靴がジャリッと音を立てる。
近寄られる分だけ蔵の中を這った正一の背中が、石の壁にドンとぶつかった。
それ以上逃げ場を失い、正一が『ひっ』と引き攣れたような短い悲鳴をあげる。


「総士さ……」


本気で怯えている正一を見て、琴は慌てて彼の左腕に縋った。
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