今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士は「ふん」と鼻を鳴らして、反応を返した。


「言うな」

「あ、あなたを愛する必要も、もちろん愛してもらう必要もありません。そんな面倒なことをせずとも、私があなたの隙を突いて殺してしまえば、あっという間に終わりですから!」


琴はほとんど捨て身で、吐き捨てるように言い放った。
目力を込めて、憎悪も殺気も漲らせる琴を見て、忠臣は忌々しげに舌打ちをする。
しかし、言われた当の総士は、なんとも愉快気にクッと声を漏らして笑った。


「その意気だ。……お前、琴と言ったな」


笑みを浮かべたまま、総士は琴にしっかりと向き合う。
黙って佇んでいれば、つい振り返ってしまうほどの美男子だ。
彼が素で浮かべる笑顔を初めて目にした琴の胸は、この状況だというのに不覚にも跳ね上がってしまった。


(この人、笑うとそんなに非道な人と思えない……)


そして、一瞬確かに殺意を緩めてしまった自分に慌てて、琴は総士を強く睨みつけた。


「琴、交渉成立だ」


総士は琴の睨みをまったく気にする様子もなく、彼女にサッと背を向けた。


「忠臣、準備、抜かりなきよう」


歩き出しながら、自身の側近にそう言いつける。
そして、琴には目もくれずに執務室から出て行ってしまった。
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