今宵、エリート将校とかりそめの契りを
忠臣の指示の下、屋敷の三階に琴の部屋が用意された。
十五畳ほどの広さがある、立派な洋室だ。
しかし、部屋の真ん中に一人では十分すぎる大きなベッドがあるだけで、他にはなにもない。
身の置き場のないそぞろな気分で、琴はベッドの上で小さく丸くなった。


落ちぶれた子爵家とは言え、琴の家はこの屋敷と遜色ない、広く立派な物だった。
しかし、だいぶ前から抵当に取られ、両親の死により人手に渡ってしまった。


もちろん、流行りを取り入れ建て直す余裕などなかった。
それ故、名取家のような洒落た洋館ではなく、先々代から手を入れていない平屋の日本家屋だ。
琴にとっては、屋敷内に螺旋階段があるのも慣れない。
もちろん、普段畳敷きの部屋に敷いた布団で寝起きしている琴には、この天蓋つきの豪奢なベッドも、違和感でしかない。


しかし琴は、心身共に激しく疲弊していた。
面識のない『名取総士』に近付くには、彼が堂々と表に出るパレード中を狙うしかないと、今日の襲撃を決意したものの、無謀なのはわかっていた。
だからこそ、計画を決めてからずっと気を張り巡らせて過ごし、決行当日の今日、昨夜から一睡もできず朝から緊張しっ放しだった。
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