今宵、エリート将校とかりそめの契りを
「湯浴み? や、夜着って」


琴が戸惑いながら瞬きをする間に、若い女中たちは即座に「はい」と返事をしていた。


「若様も本日のお務めを終えられ、自室でお待ちです」

「若様って。……え?」


きょときょとと目を彷徨わせる琴の腕を、女中たちが半ば強引に引いて、ベッドから下ろす。


「ちょっ、待って」


しっかりと床に足を着いて立ち上がった途端、琴は女中二人にガシッと両腕を取られ、焦って声をあげた。
しかし、女中頭が彼女を呆れたように一瞥する。


「いいえ。そんな呑気なことを仰らず。結婚初夜に殿方をお待たせするなど、言語道断です」

「結婚……初夜っ!?」


ピクリとも表情を動かさずに言われ、琴は大きく目を剥き、素っ頓狂な声をあげた。


「ちょっ……待って、初夜ってなんで……!」


慌てて女中の腕を払おうとするも、数人がかりで固められたら太刀打ちできない。
死に物狂いの抵抗も空しく、琴は部屋から引っ張り出され、そのまま屋敷内の浴室に連行されてしまった。
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