今宵、エリート将校とかりそめの契りを
まだパレードは続いている。
突然列から逸れた総士の横を、後から続く将校たちが、訝し気に見遣り追い越していく。


同じ陸軍将校だけでなく見物人たちも、総士と、彼と向き合う琴に、遠巻きながら興味津々の視線を向けている。


この手の注目を浴びるのは慣れているのだろう。
総士はやはり顔色一つ変えないが、琴の方は自分より頭一つ分背の高い総士を見上げて、ゴクッと喉を鳴らした。


威勢よく飛び出してきた彼女が、わずかに怯んだ気配を、総士は見逃がしはしない。
まだ二十三歳という若さではあるが、陸軍士官学校で軍人としての教育を受け、同年卒業の同級生の中でもいち早く中尉の階級に上り詰めた、エリート中のエリートだ。
琴の身から発せられる殺気に、気付かぬわけがない。


「お兄様の……父の、母の仇!! 覚悟っ!!」


彼女がギラッと光る短い刀身を懐から取り出し、そう叫びながら振り翳す前に、総士は既に受け身の構えを取っていた。
彼に制され、遠巻きになっていた警官が「あっ」と声をあげて駆け寄ろうとした時には、琴はその手から短刀を叩き落とされていた。
刀を取り落とした琴が、一瞬気を取られた隙に、数人の警官がわらわらと彼女を取り囲む。


「曲者めっ!」


一瞬にして視界が回転した。
鋭い声が響いた時、琴は警官に取り押さえられ、地面に伏せていた。
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