今宵、エリート将校とかりそめの契りを
うつ伏せになった目線の先に、先ほどまで手にしていた短刀が転がっているのを見つけた。
手を伸ばして拾い上げようにも、琴は後ろ手で地面に押さえつけられていて、それを再び手に取ることもできない。
「っ、くう……」
悔しさのあまり、奥歯を噛みしめ、呻き声を上げる琴の狭く低い視界に、茶色いブーツの爪先が映り込んだ。
囚われた琴が、なんとか拾い上げたい短刀を、その足が無情にもギリッと踏みにじる。
激しい屈辱で、呻くことすら忘れる琴の目の前に、短刀を踏みつけた総士がゆっくりと片膝を突き、しゃがみ込んだ。
顎を上げて見上げるのがやっとの琴を、首を傾げるようにして覗き込む。
「仇、とは。なんのことだ?」
華やかなパレードの最中の捕り物騒動。
見物人は遠巻きに見ているが、先ほどまでの歓声とは異質なざわざわとした声が耳につく。
だと言うのに、総士はますます冷めた様子で、抑揚のない声で質問を重ねる。
胸に憎しみの炎を燃やし、背を押されるようにして、彼への襲撃を目論んだ琴には、総士のまったく動じない涼やかな物言いが気に障った。
「しらを切らないでください」
できる限り喉を仰け反らせ、琴はキッと総士を睨み上げた。
彼女の強い目力に、総士もフッと眉を寄せる。
「しら?」
「兄は、先の世界戦争で戦死しました。それは、副官のあなたが兄を見殺しにしたせいです」
手を伸ばして拾い上げようにも、琴は後ろ手で地面に押さえつけられていて、それを再び手に取ることもできない。
「っ、くう……」
悔しさのあまり、奥歯を噛みしめ、呻き声を上げる琴の狭く低い視界に、茶色いブーツの爪先が映り込んだ。
囚われた琴が、なんとか拾い上げたい短刀を、その足が無情にもギリッと踏みにじる。
激しい屈辱で、呻くことすら忘れる琴の目の前に、短刀を踏みつけた総士がゆっくりと片膝を突き、しゃがみ込んだ。
顎を上げて見上げるのがやっとの琴を、首を傾げるようにして覗き込む。
「仇、とは。なんのことだ?」
華やかなパレードの最中の捕り物騒動。
見物人は遠巻きに見ているが、先ほどまでの歓声とは異質なざわざわとした声が耳につく。
だと言うのに、総士はますます冷めた様子で、抑揚のない声で質問を重ねる。
胸に憎しみの炎を燃やし、背を押されるようにして、彼への襲撃を目論んだ琴には、総士のまったく動じない涼やかな物言いが気に障った。
「しらを切らないでください」
できる限り喉を仰け反らせ、琴はキッと総士を睨み上げた。
彼女の強い目力に、総士もフッと眉を寄せる。
「しら?」
「兄は、先の世界戦争で戦死しました。それは、副官のあなたが兄を見殺しにしたせいです」