今宵、エリート将校とかりそめの契りを
総士は黙って眉間の皺を深める。


「『お悔やみ』だなんて、よくもいけしゃあしゃあと……」


それを聞いていた警官が、「黙れ、女!」と、一層強く琴の腕を締め上げた。


「っ……」


その痛みに、琴は不覚にも唇を噛みしめ、まだ幼さの残る整った顔を苦悶で歪めた。
それを見た総士は、ピクリと眉尻を上げる。
そして、彼女を取り押さえている警官に「どけ」と命じた。


「離してやれ。これがなければ、この女は丸腰だ」


不遜な物言いで、総士はブーツの下から琴の短刀を取り上げた。
それを自身の軍服の懐に収め、スッと立ち上がる。


「で、ですが、中尉殿」

「命令だ。離せ」


短く淡々と命令を畳みかけられ、警官は躊躇しながらも琴の腕を解いた。


拘束を解かれても、琴はすぐには起き上がれない。
警官二人がチッと舌打ちして、琴の両腕を引き、乱暴に立ち上がらせた。
顔を上げた彼女を覗き込むように、総士が背を屈める。


尋常ではない近い距離に、琴は大きく息をのんだ。
しかし、背を仰け反らせて逃げようとしても、彼女は両腕を警官に掴まれていて、意地悪く後ろから押されて間隔を保つこともままならない。


「中尉殿。処罰については我々にお任せください」


琴の腕を締め上げながら、警官が意気揚々と申し出た。
それを聞いて、琴はビクッと身を竦める。
総士はその反応を見逃さず、鋭く目を細めた。
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