今宵、エリート将校とかりそめの契りを
それからどのくらいの時間が経ったか、総士がうつらうつらとし始めた時。


「っ、う……」


息を吸い込んだ途端、喉をグッと押さえつける手に、気道が塞がれた。
息を吐き出せないままハッと目を開けた総士の視界に、黒髪を解れさせた琴の姿が映り込む。


月明りに照らされた寝室で、琴は総士の腹に跨り、彼の首に両手をかけていた。
総士は反射的にゴクッと唾をのんだ。
喉仏が上下する感覚は、首にかけた手から琴にも伝わったようだ。


「こ、と……」


掠れた声で名を呼んだ総士の上で、琴が髪を振り乱した。


「死ねばいいのよ!」


心の底から吐き出したような声は、まるで戦地で聞く獣の遠吠えのようだった。


「軍人なんか、いなくなればいい。戦争なんかする人がいるから、こんな……こんな……っ!」


鋭い殺気を全身に漲らせているというのに、琴の手にそれ以上の力はかからない。
総士は怪訝な思いで眉を寄せ、自分の首にかかる彼女の両手をグッと掴んだ。


「こんな細っこい腕で、男の首を絞め切れると思うのか?」


総士が手に力を込めると、喉にかかる圧迫感が和らいだ。
彼を見下ろす琴が、ヒクッと喉を鳴らすのがわかる。
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