今宵、エリート将校とかりそめの契りを
入浴を済ませて自室に戻ると、明かりを落とした寝室に、昨夜と違う夜着を纏った琴が佇んでいた。
ドア口に背を向けていて、総士の気配に気付きビクッと肩を震わせる。


「お、お帰りなさい」


そう言いながら振り返った琴の顔は強張っていて、月明りの中で青白く浮かび上がった。
総士は短く「ああ」と言うだけで、彼女の横を通り過ぎベッドに向かう。


総士の向かう方向を目で追っていた琴が、意を決したようにベッドサイドに進んできた。
先にベッドに入った総士を、彼女は黙って見下ろしている。
総士は小さくかぶりを振って、琴に向かって手を伸ばした。


「琴、これを」

「え?」


彼女に向かって突き出した手を、目の前で開いて見せる。
総士の手の平に乗っていたキャラメルを見て、琴は虚を衝かれたように瞬きをした。


「俺の上官からの結婚祝いだ。琴に、と」

「わ、私に……?」


琴は戸惑った様子で自分の口で反芻して、総士の手から小さなキャラメルを摘まみ上げた。
それを見て、総士は掛布団を上げ、隣に琴を誘う。
琴は指先のキャラメルと総士を交互に見遣り、目を伏せてから隣に身体を滑らせた。


「今夜はなにもしない。それを食べて、ゆっくり眠れ」

「っ、え?」


それだけ言ってさっさとベッドに横たわる総士に、琴がさらに戸惑いを強めて聞き返す。


「朝食は無理するなと言い置いたが、昼も夜も食わないとなれば、身体に障る」

「あ……」


琴が短く声をあげるのを聞きながら、総士はそっと目を閉じた。
< 72 / 202 >

この作品をシェア

pagetop