今宵、エリート将校とかりそめの契りを
それでもなお、琴の両脇を固める二人に、総士は無言で目配せをした。
彼らは渋々といった様子で琴から二歩ずつ下がる。
それでも警棒を手に、なにかあれば……と警戒を解きはしない。


二人の警官を見遣るように、一瞬自分の両側に視線を向けた琴の前に、総士は足元の土を鳴らして歩み寄った。
頭上から降ってくる彼の影に、琴はハッとしたように顔を上げる。


「さて、と……。早乙女軍曹の妹。ご立派な子爵令嬢。どんな罰をくれてやろうか」


総士の視線を真っ向から受け、琴は不覚にもゴクッと唾をのんだ。
その反応を一から十まで確認して、総士はフッと口角を上げて笑う。


パレード中、まったく表情を動かさなかった彼の薄い笑み。
向けられた琴ではなく、遠巻きにしていた見物人の女性から、小さな悲鳴のような声があがった。


それが聞こえているのかどうなのか。
総士はすぐに笑みを引っ込め、身を竦めている琴の腕を掴んだ。


「っ……」


先ほどの警官二人のような、力任せで加減を知らない、乱暴な掴み方ではない。
力一杯振り払えばすぐに解けそうで、琴は却って抵抗を失った。


それはもちろん、総士にも感覚で伝わったのだろう。
彼は琴に背を向け、彼女の歩を促すように前に引いた。
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