無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 会社で気を張っているぶん、私の普段の生活は人には見せられないくらい抜けている。

 この『素』が出てしまわないように、日々気をつけているわけだけど……。

「お、卵焼きうまそー」

 ビリヤードに興じていた三人のうちのひとりが、いつのまにかすぐ横に立っていた。

「いいねえ手作り弁当」

 にこにこと愛想よく笑っているのは二年先輩の営業マン、池崎さんだ。

「いつも外食ばっかだと飽きるんだよね。ねえ小松ちゃん、俺にも作ってくれない?」

 お得意の営業スマイルを向けられて、私も笑みを返した。

「外食だと味が濃いものが多いですしね。いつもどこで召し上がってるんですか?」

 私の今日の卵焼きもめちゃくちゃ塩辛いですよ、と心の中で唱えながら、どうにか話を逸らそうと試みるけれど、池崎さんはなかなか手ごわかった。

「共同社食とか地下のレストランも行くけど、結局いつも同じもん頼んじゃうんだよね。夜もそんなんばっかだし。俺、手作りに飢えてるんだよ。だからさ、ね、小松ちゃん」

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