無慈悲な部長に甘く求愛されてます

「ケーキが報酬だったんだ」

 脈絡のない言葉に、「え?」と顔を向けると、冴島部長はわずかに表情を崩して続けた。

「クリスマス。フルーヴを手伝った報酬は、ケーキで支払われる約束だった」

 穏やかな目で私を見下ろして、意地悪っぽく笑う。

「君にぶつけてしまったあれだよ。ちょうど車に置きに行こうとしていたところで」

「そう、だったんですか」 

 冴島さんの笑顔に、まるで条件反射みたいに心臓が鳴った。

 頬にあたる空気は冷たいのに、彼と並んで歩いているだけで、私の顔は熱くなっていく。

「いい年して恥ずかしいんだが、俺は兄貴のケーキがとても好きでね。結構楽しみにしてたわけだ。それがなくなって、しかも女の子に迷惑までかけて、二重のショックだったよ」

 彼の声を聞きながら、私は口元を覆うようにマフラーを引っ張り上げた。

 外灯の光くらいでは気づかれないと思うけれど、赤くなっている顔を見られたくない。

「あのとき、ひどく落ち込んでいたはずなのに……申し訳ないと思いながらも、俺はちょっと救われた。……君の言葉で」

< 77 / 180 >

この作品をシェア

pagetop