無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 まっすぐ見つめられて、身動きがとれない。

 私の右肩をやさしくつかんで、冴島さんが顔を寄せてくる。

 心臓がバクバクうるさかった。

 鼻先が触れそうになって、ぎゅっと目をつぶる。

 冴島さん――


 そのとき、ドアが開く音がして、アパートから住人が出てくる気配がした。

 冴島さんがぱっと顔を上げて、私から離れる。

 面識のない一階の男性が、邪魔そうに私たちを一瞥して通りすぎていく。

 それを見送ると、部長は私に向き直って言った。

「……それじゃあ、また」

「あ……はい」

 私の返事に微かにうなずくと、冴島部長は早足で来た道を戻っていった。

 毒でも回ったみたいに、私は全身が痺れて動けなかった。

 小さくなっていく背中を見送りながら、胸が詰まって、その場に崩れ落ちそうだった。













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