契約結婚なのに、凄腕ドクターに独占欲剥き出しで愛し抜かれました
「…悠さん…?」

悠さんの視線の先を追うと、ヒールを上品に鳴らし、茶色いロングヘアをなびかせながら、人目をひく綺麗な女性が明らかにこっちに向かって近づいてくる。

彼女は私たちの目の前で足を止めた。

「久しぶりね、悠。
まさか同じ病院で仕事をすることになるとは思わなかった」

…悠、呼ばわり…?

「俺もだ。まあ、ウチの精神科は年寄りの男の先生2人だけだったから、女医がいると女性患者も安心なんじゃないか?」

「そうね。忙しくなりそうだわ」

ふふっと笑った彼女は私のほうに顔を向ける。

「こちらが例の奥様?」

「ああ。凛、この人は精神科医の菊川先生。来週から新しく入る医師だ」

「菊川香織です。よろしくね」

菊川先生は穏やかに微笑んで会釈をした。

「あっあの、風間凛です。管理栄養士をしています。
よろしくお願いします」

あまりに素敵な人を目の前にして、ドキドキしながら私も頭を下げた。

「じゃあまたね」

「ああ」

菊川先生はまたコツコツとヒールの音を立てて歩き出した。



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