いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
頭上で、彼が息を飲む気配がする。
胸元に寄せた耳から、ドクドクと彼の鼓動が忙しなく動く音がして、その早さに安堵した。
私の想いに、行為に、彼が喜んでくれているのだと。
いち君は、涙交じりの声で私の名を呼ぶと、掻き抱くように私をその腕に閉じ込めた。
「ずるいな、沙優は。倒れて数時間の君に、何もできないってわかっててそんなこと言うのは、ずるい」
嬉しそうに、幸せそうに囁くいち君。
「俺もね、君だけに恋して、君だけが欲しくて。十二年の間、会いたくて気が狂いそうだった」
──だから、今、嬉しいのに、あり得ないくらい苦しい。
吐き出した彼の想いに、私は頬を緩めた。
同じ想いを持っている。
苦しいのに、心地よかった。
──結局、私たちは日付が変わるまで起きていた。
いち君は休んだ方がいいと言ってくれたのだけど、私が起きて、彼の口から聞きたかったのだ。
「沙優、誕生日おめでとう」
久し振りのその言葉を、一番に。
ソファーに二人で腰掛けて、彼の腕に抱かれて。
「ありがとう」
微笑むと、額にそっと唇が落とされる。
彼の指先が私の髪を梳いて、優しげに瞳を細めた。
キュン、と胸が切なく締め付けられる。
彼の唇が触れた額が、熱い。
──足りない、だなんてふしだらな想いが生まれたのは、私だけじゃなかったようだ。
いち君は私の肩に顔を埋めるようにする。
耳元に熱を持った吐息がかかり、私の肩が僅かに跳ねると彼は甘ったるい声で言った。
「もう少しだけ、いい?」
もう少しとはどこまでなのか。
けれど、そんな野暮なことを聞ける雰囲気でもなく、もう少しと望んでいるのは私も一緒で。
だから、うん、と消え入りそうな声を返せば。
ありがとうと、囁いたいち君の息が唇を撫でる。
ゆっくりと、優しく、噛み付くように。
初めて交わした彼との口づけに、私は呼吸を忘れていた。