いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「お疲れさまでした……」


ダメだった。

お店が閉まる前にと頑張ったけれど、結局企画会議が長引いて現在午後九時五十分。

完全にどこの店も閉まってるであろう時間になり、私は仕方なく肩を落としながら事務所を出た。

明日、使えそうな服はあるだろうか。

思考を巡らせつつ、駅を目指して歩いていた私の前に見覚えのある眼鏡をかけた女性が現れた。

ピタリとしたタイトなスーツを待とう彼女は、私に向かって綺麗なお辞儀をする。


「突然申し訳ありません。真山沙優さんですね」

「はい……」

「私、明倫堂、東條社長の秘書をしております坂巻(さかまき)と申します。少しお時間よろしいでしょうか」


笑顔ひとつ浮かべず淡々と話す坂巻さんは、こちらへお願いしますと、道路の脇に停まっていた黒いリムジンの後部座席の扉を開けた。

私は頷いてもいないのだけど、車内で足を組んで座るその人を見て目を丸くする。

東條社長が乗っていたのだ。


「いきなりすまない。話がしたいんだ」


乗ってくれと言われて、私は何の用なのかと不思議に思いながらも車に乗り込む。

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