いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


車は動かない。

話が済めば下ろしてくれるのだろう。

ただ……なぜか、いい予感はしない。

目の前に座る東條社長は微笑みを携えてはいるけど、瞳の奥が笑ってないのだ。

彼は黒いビジネスバッグからかさりと音を立てて、分厚い封筒を取り出すと私に差し出した。


「これを、受け取ってほしい」


何ですか、なんて聞かなくてもわかる。

お金だ。


「二百入っている。申し訳ないが、これではじめとは別れてもらえないかな」


ガン、と。

鈍器か何かで頭を殴られたに等しいショックが私を襲う。

手切れ金だなんて、ドラマか映画の世界でしか見ないと思っていた。

でも、衝撃を受けたのはお金にではない。

別れろと言われたことにだ。


「……なぜですか?」


私は封筒を受け取らずに尋ねる。

すると、社長は一度封筒をシートの上に置いた。


「実は、はじめに頼まれてある約束をしたんだが、いい縁談の話が来ていてね。それを逃したくない。だが、あの子は私の話を聞かないから、君が身を引いてくれるなら、はじめも諦めがつくはずだと考えた」


少ないならさらに出そう。

いくら欲しい。

そう問われて、私は眉根を寄せた。

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