いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


『今度きちんと話を聞かせて』


彼はそう願っていたけど、その今度は訪れるのか。

真実を知る前に、逃げることもできるのだと、弱い私が囁く。

別れを告げればいいのだと。

でも、怖い。

彼とまた離れるのは辛い。

だけど、まだ真実を尋ねる勇気もない。

ああ、弱い。

強くなりたい。

優しくありたいけれど、今欲しいのは何があっても前を向ける強さだ。

欲しい。

傷ついても、前を向ける強さが。

一人になれば、さっきは前を向きかけたように感じた心が再び塞ぎ込んでいく。

もう、今は何も考えないようにしよう。

これ以上、彼を疑うことをしたくない。

私はタッパーの蓋を開けて、箸を手にするとからあげを頬張った。


「……美味しい」


仁美さんの料理は、美味しい。

視界が滲むけど、これはいち君と吉原さんのせいじゃない。

仁美さんの手料理が美味しすぎるせいだ──。














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