いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
いち君が私を庇うように、彼女との間に立つけれど、その背中は戸惑っている。
「父さん……」
「ふむ。こういうことだな。私がいつまでも好き放題していると、これから家族になるやもしれない者まで傷つけると。確かにこれは一度考えを改めなければならないな」
呆然と社長を見つめる坂巻さん。
社長は彼女を黒服の部下らしき男性に預けると、私たちをその視界に捉えた。
「坂巻のことはこちらで話し合う。沙優さん、すまなかった」
「い、いえ……」
「はじめ」
「はい」
いち君の声は固いけれど、やはりいつもより困惑しているようだ。
「詫びとして、約束通りお前の好きなようにしなさい」
「は、はい。ありがとう、ございます」
東條社長はいち君の返事を聞くと、すぐに踵を返して坂巻さんを連れて車に乗り込む。
それを見送りながら、私はいち君が着るシャツの背を引っ張った。
「つまり?」
それだけ問いかけると彼は振り返って肩をすくめてから微笑む。
「父が持ってきた新たな縁談は白紙に。君との結婚に向けて好きなようにやれ、かな?」
あとは、少し落ち着くきっかけになればいいけど、まあそれは様子見かな、なんて続けたいち君は少し嬉しそうだ。
「いち君、良かったね」
私は彼の隣に立ち、去っていくリムジンを見つめる。
いち君も同じように自分の父が乗る車を見送りながら呟いた。
「そうだね……まあ、父さんも年取ったのかも」
今までのわだかまりは簡単に解消されないかもしれないけど、きっといい方向に向かうだろう。
そんな予感を胸に秘め、私たちは手を繋ぐと微笑みあった。