いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


ブラウンのタイルが用いられた落ち着いた外観。

ガラス張りのエントランスは開放感があり、どこか近代的だ。

三十階以上もあるこのタワーに、明倫堂で働く人たちが集まっている。

ビルを見上げながら、世界でも活躍している企業の商品に携わることへの責任を改めて実感し、気を引き締め直すと踵を鳴らして受け付けへ向かった。


温かな笑顔で案内されたウエイティングスペースは、白を基調とした明るく清潔感漂うデザインだ。

様々な部署が集まっているからか、並んでいる白いソファーには私の他にも数名、スーツに身を包んだ人たちが座っている。

いつもはシャツにパンツを合わせたオフィスカジュアルの服装で仕事をしている私も、今日は吉原さんとは初対面なので、失礼のないようにスーツを着用。

空いている席に腰を下ろし、ジャケットの襟を正してからスカートの上に手を重ねると、広いフロア内を見渡した。

この階は吹き抜けになっていて、広々としている。

ところどころに配置された観葉植物がアクセントになっていて、化粧品会社らしい美しさを意識したレイアウトだ。

奥の方に正方形のテーブルと椅子がいくつか並んでいて、恐らくそこがミーティングスペースなのだろうとフロア内に目を走らせていたら。


「もしかして、俺を探してくれてる?」


どこかからかうような、しかも、聞き覚えのある声が背後から聴こえて勢い良く振り向いた。


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