いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「もしかして、ご両親から何も聞いてない?」

「聞いて、ないよ」


というか、驚かすつもりだったんだろう。

だって、父も母もいち君のことは知っている。

何度かうちに遊びに来たこともあるし、母に関してはいち君のお母さんとも友人だ。

でも……そうだ。

いつも優しく微笑んでいた、儚げで綺麗ないち君のお母さんは、私たちが中学に上がる少し前に亡くなった。

それで、転校してからなんの繋がりもないことに気づき、途方に暮れたのだから。


「そうなんだね。それなら驚いて当然か」


私の両親がしたことなのに、いち君はビックリさせてごめんね、と苦笑した。

そして、柔和な瞳を窓の外に広がる日本庭園へと向ける。

その何気ない動きが実に優美で、まるで映画でも見ている気分だ。

相変わらずの整った顔立ちに、もう忘れたはずの恋心が刺激されるような気持ちになっていると、ふと彼の視線が私へと戻ってきて。


「少し外に出ようか。天気もいいし」


小首を傾げ、柔らかそうな髪をさらりと揺らし誘う。

断る理由も特になく、私が頷くと、いち君は微笑んで立ち上がった。


< 8 / 252 >

この作品をシェア

pagetop