いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
「もしかして、ご両親から何も聞いてない?」
「聞いて、ないよ」
というか、驚かすつもりだったんだろう。
だって、父も母もいち君のことは知っている。
何度かうちに遊びに来たこともあるし、母に関してはいち君のお母さんとも友人だ。
でも……そうだ。
いつも優しく微笑んでいた、儚げで綺麗ないち君のお母さんは、私たちが中学に上がる少し前に亡くなった。
それで、転校してからなんの繋がりもないことに気づき、途方に暮れたのだから。
「そうなんだね。それなら驚いて当然か」
私の両親がしたことなのに、いち君はビックリさせてごめんね、と苦笑した。
そして、柔和な瞳を窓の外に広がる日本庭園へと向ける。
その何気ない動きが実に優美で、まるで映画でも見ている気分だ。
相変わらずの整った顔立ちに、もう忘れたはずの恋心が刺激されるような気持ちになっていると、ふと彼の視線が私へと戻ってきて。
「少し外に出ようか。天気もいいし」
小首を傾げ、柔らかそうな髪をさらりと揺らし誘う。
断る理由も特になく、私が頷くと、いち君は微笑んで立ち上がった。