いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
彼の後ろについて歩く日本庭園は、灯篭が立ち並び、趣きがある。
力強く生える緑の木々。
その傍に広がる池には白いスイレンが咲き誇り存在を主張していた。
私は、ふと足を止めたいち君の背中に声をかける。
「あの、いち君」
どうして、私に縁談の話を持ちかけたのか。
それを聞きたくて彼の名を呼んだのだけど。
振り向いたいち君は、艶やかな唇に人差し指を立てて。
「しー。鳥が驚くよ」
優しく微笑みながら木の枝に鳥が止まってるんだと、声をひそめてアピールした。
私は彼に倣い、声のボリュームを抑える。
「鳥、好きなの?」
「うん。可愛いし……何より、憧れるから」
「鳥に?」
「そう、鳥に」
答えたと同時。
羽を休めていた小鳥が、僅かに枝をしならせ、羽音を立てながら飛んで行った。
水色の空を横切るように去っていく鳥を眺めるいち君の瞳には、羨望と慈愛が滲んで見えて。
確かに、憧れている気配は伝わってくる。
やがて鳥の姿が見えなくなると、彼は身体ごと真っ直ぐ私に向けた。
その双眸は真剣みを帯びていて、思わず鼓動が跳ねれば、いち君の唇が開く。
「縁談の話は、俺がお願いしたんだ」
「……え?」
それってつまり、親同士が決めたとかそういうことではなく、いち君の意思ということ?
そう聞きたくても、声にすることが叶わない。
今日はもう驚きすぎて、頭の中がオーバーヒート状態だ。
けれど、いち君の口はお構い無しに動いて。
「沙優ちゃん、俺と結婚してほしい」
今日一番の衝撃を私にくらわせた。