いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「プレゼン後は直帰でいいよ」


事務所を出る前に上司にそう言われていた私は、まだ日も落ち切らない明るい時間に自宅であるアパートの階段を上る。


「……はぁ〜〜……」



アネモネのデザインがめでたく採用されたにも関わらず、深い溜め息が落ちてしまったのは階段を上る行為が辛いからではない。

いち君の周りに侍る美女たちの存在に、すっかり自信を無くしてしまったからだ。

いや、元々自分に自信を持っているわけじゃない。

ただ、いち君は本当に私でいいのかと不安になったのだ。

あまりネガティブな考え方はしたくないけど、今日はさすがにテンションが上がってこない。

これはアルコールでも注入すべきなのかと考えつつ、レザーのトートバッグから鍵を取り出していると、階段を上ってくる足音が聞こえた。

賑やかな話し声に、それが隣人だとわかり鍵穴に鍵を差し込みながら視線を向ける。

すると、予想通り、仁美さんが娘のチエミちゃんと共に二階へ上がってきた。


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