いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


「お父さん、厳しいの?」

「厳しいよ。でも、それだけなら構わない」


いち君は深呼吸をするように息を吐き出す。

「俺はね、小さい頃から父に本をたくさん読めと言われていたんだ。父さんのような立派な大人になる為にと。でも、本を読む度に思ってた。立派な大人ってなんだろうって。母さんを泣かせる人が、立派なのかって」

「お母さん、泣いていたの?」


私の記憶に残るいち君のお母さんは、いち君のように穏やかな笑みを浮かべている優しい人だ。

一見儚げだけど、春の陽だまりのような温かな雰囲気に、私もこんな素敵なお母さんになりたいと憧れたりもした。

子供たちを前にしたいち君のお母さんはいつも幸せそうで。

泣いていたなんて、想像もつかないけれど……


「俺たち子供には隠れて、だけどね」


眉を悲しげに寄せて微笑むいち君の表情が、一瞬、彼のお母さんと重なって見えて。

私もまた、眉を情けなく下げて「そうだったんだね」と口にした。


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