いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~


きっと、お母さんが泣いていた理由が、彼が父親を苦手とする原因なのだろう。

それが何かを聞くのはさすがに憚られて、私は口を噤んだ。

でも、一つ納得がいった。

小学生の頃、本を読む彼の姿が寂しそうで、苦しそうだったのは父親をよく思ってなかったからだと。

今日、彼が酒に飲まれてしまったのも、父親と何か諍いがあったのかもしれない。

仕事の愚痴くらいなら聞けるけど、さすがにプライベートのことを軽々しく「聞くよ」なんて言えなくて。

けれど、何か力になれないかと思案した私は、あることを思いついた。


「ね、いち君。明日のデートなんだけど、うちに来ない?」


体ごといち君に向けて提案すれば、彼は目を丸くする。


「え? 沙優の家?」

「そう。明日はお家でまったりコースにしよう」


彼にとってまさかのお誘いだったのか、いち君は僅かに口を開けて瞬きを繰り返し、やがて我に返ったように背筋を正すと、首を縦に振った。

さて、帰ったら急いで片付けだ。














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