いとしい君に、一途な求婚~次期社長の甘い囁き~
本来、今日のデートは映画でも観に行こうかといち君が提案してくれていた。
でも、互いに観たいものは特になくて、とりあえず映画館に行ってピンときたものを観てみようかと、そんな話になっていたのだ。
「かまわないよ。それより、俺も何か手伝うよ」
言いながら彼はジャケットを脱ぐと椅子の背もたれにかけた。
私はそのジャケットを預かって、ハンガーにかけるといち君を制する。
「いいの、いち君はお客様なので座っていてください。あ、でも期待しないでね。いち君の作ってくれたお弁当に比べたら落ちると思うから」
サプライズ品の方は恐らく問題ないと思うけど、昼食にと用意した魚介のサラダとフライパンで作ったアクアパッツァはたまにしか作らない上に私好みの味付けなので少し不安だ。
どちらも簡単に作れる割に豪華に見えるので、友達が遊びに来た時の定番料理なんだけど、はたしてシーフード好きのいち君の合格をもらえるのか。
そんな思いが顔に出ていたのか、彼は小さな子供を安心させるように微笑む。
「沙優が作ったのなら何でも嬉しいよ」
その言葉を聞いて、中学の時も同じようにいち君に言われたのを思い出した。
こういうところもそのままなんだと、変わってないことに安堵する。
だけど、仕事をしている時の彼はあえて私に敬語を使ったり苗字で呼んだりするので、変わってしまったような気がするのだ。
もちろん、互いに成長してるし、様々な経験をしてきたから変わっている部分があって当然なんだけど、やはり、それを寂しいと感じるのは私の心が狭量だからなのだろう。