悲劇のヒロインなんかじゃない。
青嶋さんが私に向かい一歩足を前にだした。


それと同時に「社長…」とか細い声が彼を引き留めた。


「佐知…」


彼がまた「佐知」さんの元に戻る。


私は深く息を吐き出した。


「婚約はなかったことに、ということでしたが、承知致しました。」


「えっ?」


二人が目を見開いた。


何故驚くの?願っていたことでしょう?


「青嶋社長、あなたがおっしゃっていたように、ビジネスがあっての婚約です。反対に言えば、婚約がなくなったのであればビジネスの話もなくなる。…ご理解いただけますよね?」


一瞬青嶋さんは息をのんだが、すぐに真っ直ぐに私と向きあった。


覚悟はもちろんあったのだろう。


「では…」



「待ってください!」


私を引き留めたのは「佐知」さん。
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