悲劇のヒロインなんかじゃない。
「待ってください、社長は、ううん、ここの社員みんなが、今回の事業にかけてきたんです。それが、ダメになるなんて、私の、私のせいで…」


「佐知、君のせいじゃない。」


泣き崩れる彼女の肩を青嶋さんが抱く。


私の目の前で。


「やっぱりダメです、社長。私は、私は社長といられない。お願いです。やっぱり社長は薫さんと結婚するべきです。私は身を引きますから」


「佐知!」


「何言っているのかしら?」


低い声がでた。とても自分の声とは思えないほどの声。


「あなた今何を言ったの?『身を引く』?『薫さんと結婚しろ』?」


私は静かに二人の前へと歩いていった。


「あなたは今まで何を聞いていたのかしら?青嶋さんは、私を『愛していない』と言ったの。あなた以外『愛せない』とまで言っていたわ。」
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