溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「あの、お詫びしていただかなくても、本当に大丈夫ですので」
彼がそのために選んだこのホテルで、もしかしたら食事でもするのかもしれないと思った。お詫びと言えば食事の席を設けるのが、往々にしてある。
だけど、庶民の私には見合わないほど、すべてのサービスが高価と分かるし、日本酒で汚れている浴衣姿では気が引ける。
「そうはいきません。私が納得できませんので」
慣れない場で彼の熱意を感じている間に、ホテルスタッフの案内もなく彼はエレベーターに乗り込んだ。
なんて言えば、断れるだろう。
八神さんの心遣いだけで、お詫びの気持ちは伝わっているし、そもそも八神さんが悪いのではなくて、あのおじさんのせいなのに。
「三藤さん」
「……はい」
彼に呼びかけられて躊躇していた足を進めたら、エレベータードアが音もなく閉じ、上昇を始めた。