溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
ホテルのレストランは上層階にあるらしく、各階の案内にも店名が載っている。
だけど、彼が押したボタンは客室階のひとつ。
恋愛経験が乏しい私でも、見聞きした知識だけはある。
この展開は良くないと予感したと同時にドアが開いて、背に添えられた彼の手に軽く押されて降りてしまった。
「八神さん」
「はい」
見上げれば、穏やかな彼の表情と声色が返される。
想像している展開は私の早とちりであってほしいし、ずっと好きだった彼が力づくで女性を襲うようなことはしないだろう。
でも……。
「お食事をするのではないのですか?」
「……そうですね、少し小腹が減りましたね」
その返事を聞いた私は、二十一階の通路を引き返してくれると思ったのに、彼は一瞬たりとも足を止めることなく、コーナーに位置するデラックススイートルームに入った。