溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「今から食事に出るとしても、その格好では無理でしょうから」
彼が言う意味は分かる。
だけど、男性とホテルに来たのも、その部屋でふたりきりになるのも生まれて初めてで、ドアの前から動けずにいると、彼は備え付けの電話を手にした。
「――八神です。お世話になっております。今から婦人用の浴衣を数着用意してください。サイズは……」
内容から推測するに、きっとフロントに連絡を入れているのだろう。
話しながら戻ってきた彼に、突然片腕を広げられた私はぽかんとしてしまった。
「Мでお願いします。またなにかあれば連絡させていただきます」
「っ!!」
目測でおおよそのサイズを見られただけで、なんだか恥ずかしい。
それに、手を引かれてそのまま室内に連れ込まれてしまい、豪勢な室内の様子に挙動が落ち着かない。
「あと少しだけ待っててください」
「ありがとうございます」
終話した彼に頭を下げたら、髪飾りが床に落ちてしまって、すかさず八神さんが拾ってくれた。