溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
通勤用よりもひと回り小さいバッグを持って、履きなれたショートブーツでホテルの廊下を歩く。
ホテルのスタッフとすれ違うと、「お気をつけて行ってらっしゃいませ」と声をかけられ、私は会釈を返した。
「あっ、さすがにそれは自分で」
「俺が咲を甘やかしたいんだ」
エレベーターまで歩く間、彼は私のバッグを持ってくれた。
そして空いた手は、私の手を優しく握っていて、じんわり包み込まれる温もりが心地いい。
「そっ、そんなことされても、八神さんのことは信じられません!」
なんて強がって言い返すものの、慣れないことの連続で心臓はドキドキしっぱなしだ。
「咲が手厳しいのは、よく分かってるよ」
いくら私がムッとしても彼には響かないようで、余裕たっぷりに甘い微笑みを倍返しされてしまった。