溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「お気遣いいただいてすみません。着替えが終わったらすぐに失礼しますので」

 八神さんとふたりきりでいつまでも過ごすわけにはいかないだろう。
 嬉しいけどドキドキして緊張しっぱなしだし、彼のような人となにを話していいのかも分からない。

 それに、彼のジャケットからほのかに漂う爽やかなマリン系の香りが、呼吸のたびに胸がきゅんとさせる。


「食事に付き合いますから、そう焦らずに。ゆっくり過ごしてください」

 柔和な笑みを浮かべた彼は、私の肩からスーツジャケットを取って、部屋の奥に向かった。

 彼は親切心で接してくれているだけだと思うのに、なぜホテルの個室に入れられたのかと考えれば考えるほど、よからぬ妄想が広がっていく。
 経験もないのに、知識だけは一人前になってしまったせいだ。


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