溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
一日をどう過ごしていたか記憶にないくらい、起こしてしまった一件のことばかり考えていた。
気づけば夕方になり、担当営業の社員からは『今後の契約が打ち切られたらどうするんだ』とクレームを入れられ、ひたすら申し訳ないと謝るばかりで。
帰宅して、八神さんの匂いがする室内から夜景を眺める。
街の中にあるこのホテルからは、遠くまで見渡せるような眺望はないけれど、その代わり東京タワーが見えて綺麗だ。
学生の頃、なにかあったら東京タワーを見て、勇気づけられたのを思い出した。
どういうわけか、頑張れって言われているような気がして……。だけど、今夜は見ていられない。
自分の管理不足が原因で、多大な迷惑をかけてしまった。
もしかしたら、今後の取引が叶わなくなり、損失になるかもしれない。
「ただいま……。咲、どうした?」
仕事から帰ってきた八神さんは、リビングの床につぶれるように座り込んでいる私にすかさず駆け寄り、顔を覗き込んできた。