溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

 翌朝、十時を過ぎた頃、八神さんの運転でホテルを出て、渋谷の街へ向かうことになった。
 気持ちを明るくしようと、淡いブルーのアンサンブルニットと白いフレアスカートを着てきたものの、やっぱりふと過ってしまうのは書類紛失のことだ。


「大丈夫か? 無理して連れ出そうとは思わないから、部屋に戻ったっていいんだよ?」
「平気です。部屋にいると鬱々としてしまいそうなので」
「それならいいんだけど……」

 左でハンドルを握る彼は、時折私の様子を気にかけてくれる。


「っていうかさ、デートで文具を見にいきたいなんて初めて言われたよ」
「……やっぱり変ですよね」
「いや、新鮮でいいよ」

 デートにも不慣れな私は、生活雑貨全般を広く取り扱っている大型チェーンストアに行きたいと告げてしまったのだった。


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