溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~

「見てください! このペンの軸の色が綺麗で気分が上がると思いませんか?」
「そうだね、綺麗だと思うよ」

 国内外各社の最新文具が並んでいるのを見ると、心が躍る。気に入ったペンや付箋、高級和紙のメモパッドとお礼状などを使って働いたら楽しいだろうなと、考えるだけではしゃいでしまった。


「咲って面白いね」
「そうですか?」
「だって、文具売り場で二時間以上もデートできる子、初めて会ったよ」
「……あぁっ! す、すみません! そろそろ八神さんの行きたいところに行きましょう!」

 かごに入れていた文具を元の場所に戻しに行こうとしたら、彼に奪われてしまった。


「えっ、八神さん!?」

 私を置いてレジに並び、会計を済ませてしまった彼の隣でバッグから財布を出す。


「それ、しまって。っていうか、俺といる時は財布は不要だから覚えておいて」
「で、でも、さすがに」
「いいの。これでまた仕事を頑張れるんだろ?」

 彼は、購入した商品と私のバッグを一緒に持ち、空いた方の手を繋いでくれた。

 せっかくの週末なんだから楽しくしようと尽くしてくれる彼の優しさに触れ、信用できずにいた気持ちが少しずつ溶けていくようだ。


< 172 / 210 >

この作品をシェア

pagetop