溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
「でも、前よりはいい人だなって思ってますよ」
「それだけ?」
不服そうに言った彼は、明るい笑顔で私を見つめている。
「いいよ、咲が俺を信じてくれるまで、この生活は終わらないからね」
「えっ、ちょっ……そんな話聞いてません!」
「うん、言ってないね」
彼はずいぶんと楽しげだけど、私は困るばかりだ。
だって、いつまでもホテル暮らしなんてできるとも思わないし、慣れることもなくて出入りの度に緊張してしまうし。
それに、キングサイズのベッドは広いはずなのに、彼は必ず私を抱きしめて眠るから生きた心地がしないのだ。
今となっては、一緒にいて楽しいと思ってしまう自分もいて。
最低最悪のオオカミ御曹司だとばかり思っていたはずなのに。
「咲を俺で染められたらいいのになぁ」
不意を突いた彼のひと言に驚き、思わずテーブルの上にカフェラテのグラスを倒しそうになった。