溺れて染まるは彼の色~御曹司とお見合い恋愛~
自宅の浴室の何倍もある広さに唖然としつつ、鏡に映った自分の裸が恥ずかしくて、手早くシャワーを出した。
好きになれない自分の姿が湯気で隠れていく。
とくに褒められたことのない平均的な顔立ちと、百五十八センチの日本人らしい背丈。
できる限りのスキンケアしか施されていない肌は、連日の日差しで少し焼けている。
八神さんのような麗しい美貌を持つ男性に恋をするなんて、無謀なんだろうな。
それに、あの格式高い家系とは、住む世界が重なることもなさそうだ。
しいて言えば、時々見かけた通勤電車と、今日の花火大会くらい。
「はぁー……」
彼のことをもっと知りたいと半年間願っていたし、私のことも知ってほしいって思っていたけれど、それが現実になればなるほど、彼とこうして過ごせるのは今夜限りだとしか思えなくて。
この恋が叶うなんて、ありえない。
ひと目惚れで始まった恋が成就するなんて、夢のような話だもの。
日本酒をかけられてからというもの、やっと呼吸をしたような気分だ。
八神さんのせいでドキドキしたまま収まってくれない胸の奥も、ひとりになったら少しだけ落ち着きを取り戻した。